長い長いお医者さんのつぶやきブログ~医学と医療の回想~

思いつくまま気の向くまま,医学,医療に関するちょっとした事柄を末端医者の立場から気軽に発信出来たらいいなと思い,一念発起してブログを立ち上げました。煌びやかではありませんが,よろしければお付き合い下さいませ。

蟯虫症(ぎょうちゅうしょう)

第108回 蟯虫症(ぎょうちゅうしょう) 九州国立博物館が所蔵している「針聞書(はりききがき)」(縦24.3cm,横21.4cm,152頁)という鍼灸に関する4部構成の医学書があります。室町時代の後期,戦国時代の山場(織田信長の上洛)である1568年(永禄11年…

ヒトと寄生虫

第107回 ヒトと寄生虫 私達医師は医学生の時に,医動物学,寄生虫学,免疫学,感染症内科学,感染防御学,公衆衛生学,熱帯医学などの講義,実習で,様々な視点から寄生虫について学びます。寄生虫の生態やヒトへの寄生虫感染とその病態,治療などについ…

シラミ症3 ケジラミ症

第106回 シラミ症3 ケジラミ症 <ケジラミ症> ケジラミは「毛」と言っても,特に陰毛を好みます。よって,ケジラミ症は性感染症の一つに挙げられています。陰部同士の直接接触によりケジラミが感染します。不特定多数のパートナーとの性行為により蔓延…

シラミ症2 コロモジラミ症

第105回 シラミ症2 コロモジラミ症 <コロモジラミ症> コロモジラミは数時間毎にヒトから吸血を繰り返し,吸血以外の時は主に衣類の襟首や袖口などの縫い目,折り目に付着して生活をします。その名前の通りコロモが好きなんですね。よって,コロモジラ…

シラミ症1 歴史とアタマジラミ症

第104回 シラミ症1 歴史とアタマジラミ症 京都国立博物館に所蔵されている国宝の中に,「病草紙」(やまいのそうし)(1952年指定)というものがあります。後白河法皇(1127~1192年)の命で1180年代末(平安時代末期から鎌倉時代初期の頃)に制作された…

疥癬

第103回 疥癬 ダニ(蜱)は全世界で45,000種もあり形態,生態共に極めて多様性に富むものの,ヒトに害をなすものはほんの一部だそうです。節足動物門鋏角亜門クモ網ダニ目に分類されます。クモやサソリの仲間と言えます。基本的には頭部,胸部,腹部が一…

尖圭コンジローマ

第102回 尖圭コンジローマ 尖圭(せんけい)コンジローマ(Condyloma acuminatum)は性感染症の一つで,ヒト乳頭腫ウイルスの特に6型,11型の感染によって性行為に関連した部位(外陰部,陰茎,膣,子宮頸部,肛門周囲,口腔など)に発生する多発性の「い…

伝染性膿痂疹(とびひ)

第101回 伝染性膿痂疹(とびひ) 今回は伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)について触れさせていただきます。「とびひ」と言えばお分かりになるでしょうか。あちこちに飛び火して火事が周囲に広がるがごとく,独特の臨床経過をたどる皮膚の細菌感染…

足白癬(水虫)

第100回 足白癬(水虫) 俗に言う「水虫」は正式には足白癬(あしはくせん)と呼びます。昔からあるごくありふれた病気の一つですね。季節性の変動(夏に増加,冬に減少)がありますが,日本人では平均5人中1人程度の割合で足白癬があるのだそうで,かな…

耳垢栓塞

第99回 耳垢栓塞 「耳垢栓塞」何と読むのかさっぱり分からない!と言われそうですが,「じこうせんそく」と読みます。耳あかが溜まりすぎて耳の穴(外耳道)につまっている状態を指します。小学校の健康診断で引っ掛かりやすい項目の一つです。乳幼児~小…

胎盤,臍帯,卵膜

第98回 胎盤,臍帯,卵膜 胎盤,臍帯,卵膜は女性が子供を出産する際に必要な「臨時の臓器」で,女性にしかありえないたいへん興味深いものです。動物の哺乳類の一系統である有胎盤類(真獣下綱)のみが胎盤を形成し,ヒトを含む霊長類はここに所属します…

水痘

第97回 水痘 水痘(すいとう,Varicella, Chicken pox)とは,いわゆる水疱瘡(みずぼうそう)で,水痘・帯状疱疹ウイルスによる感染症です。発熱や全身倦怠感など非特異的な症状が出現する場合もありますが,皮膚に全身散布性に水疱を形成することを特徴…

軟線維腫,軟性線維腫

第96回 軟線維腫,軟性線維腫 尋常性疣贅,脂漏性角化症と並んでよくある皮膚の隆起性病変は,一種の加齢性変化(皮膚の弛み)と考えられているものです。本やホームページによって書いていることが異なるかもしれませんが,軟(性)線維腫(なん(せい)…

脂漏性角化症

第95回 脂漏性角化症 脂漏性角化症(しろうせいかくかしょう)は,老人性疣贅,老人性いぼと呼ばれたりすることがありますが,特に高齢者の顔面や頭部,体幹などに発生する表皮系の良性腫瘍です。20歳代でも認められることがありますので,必ずしも「老人…

尋常性疣贅

第94回 尋常性疣贅 何て読むのか分かりにくいかもしれませんが,尋常性疣贅は「じんじょうせいゆうぜい」と読みます。尋常性は「ありふれた」,疣贅は「いぼ」という意味ですので,ありふれたいぼと言う意味です。 尋常性疣贅は,皮膚の微小外傷からヒト乳…

梅毒

第93回 梅毒 性感染症の一つである梅毒(ばいどく)(Syphilis)は,梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)というらせん状の細菌(長径0.1-0.2µ,長さ6-20µ,グラム染色陰性)による全身性慢性感染症です。それぞれ特徴的な3つ(あるいは4つ)病期,潜伏…

性感染症

第92回 性感染症 最近,梅毒患者が急増しているという報道をよく聞きます。梅毒は性感染症の一つで,その他にもいくつも存在しています。性感染症に対する認識の甘さやモラルの低さ,性教育の不行き届きを嘆かずにはいられませんが,特に先進国では治療で…

みずいぼ

第91回 みずいぼ うちの子供達も御多分に漏れず,幼稚園や地元公営プールの水泳教室で何度もみずいぼをもらって来たものです。まさに子供同士で移し合いです。御経験がありませんか? みずいぼの正式名称は,伝染性軟属腫(でんせんせいなんぞくしゅ)(Mo…

珍しくない多重癌

第90回 珍しくない多重癌 医療水準が上がったこともあり,今は多重癌の患者さんは決して珍しくありません。多重癌とは二つ以上の臓器の担癌状態を指します。一つの癌があってそれが他臓器に転移を伴っている場合は含まれません。同時発生かどうかは厳密に…

日本人研究者の活躍した脚気とビタミンB1の歴史5

第89回 日本人研究者の活躍した脚気とビタミンB1の歴史5 精白米を主体とした従来の糖質過多蛋白質過少の兵食(窒素炭素比1対27)よりも麦を取り入れた洋食(窒素炭素比1対17)が脚気対策に良かったという食品分析に基づく高木兼寛の論理は,今から見ても…

日本人研究者の活躍した脚気とビタミンB1の歴史4

第88回 日本人研究者の活躍した脚気とビタミンB1の歴史4 森林太郎は森鷗外で知られるたいへんな文豪ですが,陸軍軍医というもう一つの顔を持っていました。彼は津和野藩の御典医家に生まれ,子供の頃から論語や四書五経,オランダ語,ドイツ語など英才教…

日本人研究者の活躍した脚気とビタミンB1の歴史3

第87回 日本人研究者の活躍した脚気とビタミンB1の歴史3 脚気のお話の続きですが,その前に壊血病について少し触れさせていただきます。 ヨーロッパの大航海時代,船の大型化や新航路開拓競争による航海の長期化(寄港が少ない)に伴って乗組員に壊血病(…

糖尿病による皮膚疾患

第86回 糖尿病による皮膚疾患 糖尿病の慢性合併症の一つとして様々な皮膚疾患があります。血糖コントロール不良の糖尿病患者さんの尿には糖分が多いですから,排尿時に御自身の陰部などの皮膚に尿が付着すれば多少なりともかゆみが出るかもしれません。ま…

日本人研究者の活躍した脚気とビタミンB1の歴史2

第85回 日本人研究者の活躍した脚気とビタミンB1の歴史2 脚気はビタミンB1欠乏症の一病態です。ひどいと脚気衝心といって肺高血圧症を伴う高拍出性心不全で死に至ります。ずっと昔から存在していたと思いますが,脚気が「流行」したのは精白米を食べる習…

糖尿病による免疫力低下

第84回 糖尿病による免疫力低下 糖尿病の慢性期合併症としての細血管障害,神経障害,網膜症,腎症については様々なホームページで紹介されています。私も第78,79,81,83回で触れさせていただきました。何せ患者さん御本人の心身,生活に重い負…

糖尿病性腎症

第83回 糖尿病性腎症 腎臓は血液をろ過して余分な水分や老廃物(尿素窒素,尿酸,クレアチニンなど),電解質を尿として体外に排出する臓器です。糖や蛋白など生体に必要なものは決して漏らしません。ナトリウムと水分の調整のみならず,レニン-アンジオ…

日本人研究者の活躍した脚気とビタミンB1の歴史1

第82回 日本人研究者の活躍した脚気とビタミンB1の歴史1 脚気(かっけ)(英語Beriberi)はビタミンB1欠乏症によって末梢神経障害(多発神経炎)と高拍出性心不全(脚気心)を生じる疾患です。栄養学の知識のない昔の日本は,肺結核症や梅毒などの感染症…

糖尿病性網膜症

第81回 糖尿病性網膜症 眼球をカメラに例えると,網膜はフィルムカメラのネガフィルム,デジタルカメラのイメージセンサー(撮像素子)に相当します。網膜は眼球の内面後方に存在します。光や色を感知する神経細胞(視細胞)の敷き詰められた膜状組織(厚…

消毒法の父ゼンメルヴァイスの悲運

第80回 消毒法の父ゼンメルヴァイスの悲運 第69回,第75回でも触れさせていただきましたが,細菌(結核菌を含む)や梅毒トレポネーマへの感染に対して治療が出来るようになったのは,今からせいぜい70~80年前からです。第二次世界大戦中の1943年,イ…

糖尿病性神経障害

第79回 糖尿病性神経障害 糖尿病の合併症の一つに糖尿病性神経障害(ニューロパチー)があります。高血糖による一過性,可逆性の神経障害もありうるのですが,ここでは血糖コントロール不良が長期に継続したことで発症するものについて述べさせていただき…