長い長いお医者さんのつぶやきブログ~医学と医療の回想~

思いつくまま気の向くまま,医学,医療に関するちょっとした事柄を末端医者の立場から気軽に発信出来たらいいなと思い,一念発起してブログを立ち上げました。煌びやかではありませんが,よろしければお付き合い下さいませ。

脂漏性角化症

第95回 脂漏性角化症


イメージ 1  脂漏性角化症(しろうせいかくかしょう)は,老人性疣贅,老人性いぼと呼ばれたりすることがありますが,特に高齢者の顔面や頭部,体幹などに発生する表皮系の良性腫瘍です。20歳代でも認められることがありますので,必ずしも「老人性」ではありません。実例写真を以下に提示いたします。身の周りの方,あるいは御本人にもしばしば見かけるのではないでしょうか。
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 簡単に言えば,いわゆる「しみ」が隆起して疣贅状,カリフラワー状,顆粒集簇状になったように見えます。長径は0.52cm程度で,隆起の程度は様々な病変です。内部にメラニン色素の増生が目立つものは黒褐色調,弱いものは褐色調になります。脂漏性角化症そのものに症状はありませんが,美容上の不快感や刺激・損傷により痂皮,血痂の付着を伴う場合があるかもしれません。長期放置してがん化するわけではありませんが,脂漏性角化症以外の皮膚悪性腫瘍(ボーエン病,有棘細胞癌,基底細胞癌,黒色腫など)で類似した所見を示す可能性がありますので,素人判断はお避け下さい。

 以下に脂漏性角化症の組織写真を提示いたします。最も代表的な組織像は表皮肥厚型です。表皮内で基底細胞様細胞が増生することで表皮は複雑に肥厚し,外向きに隆起します。内部に角化物を容れた嚢胞(偽角化嚢腫)が散見しています。表層にも角質物が目立ちます。標本にすると分かりにくくなるのですが,内部にはメラニン色素が増生しています。脂漏性角化症は他に,疣贅に似た構造形成と角質増生を伴う角質増生型,基底細胞様細胞が細い索状に増生しそれが吻合することで網目状になった網状型,表皮内で基底細胞様細胞が結節状に増生したクローン型があります。いずれにせよ良性腫瘍です。
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(脂漏性角化症表皮肥厚型。HE染色標本対物2倍。)
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(脂漏性角化症表皮肥厚型。HE染色標本対物10倍。)
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(脂漏性角化症角質増生型。HE染色標本対物2倍。)
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(脂漏性角化症角質増生型。HE染色標本対物4倍。)
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(脂漏性角化症網状型。HE染色標本対物4倍。)
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(脂漏性角化症クローン型。HE染色標本対物10倍。)

 良性と言えど腫瘍ですので自然治癒はありません。治療するならば,皮膚科や形成外科を受診して液体窒素を用いた凍結療法や外科的切除,レーザー焼灼などを受けます。

 急激に全身に痒みのある脂漏性角化症が多発することがありレゼル-トレラ兆候と呼ばれますが,この場合内臓のどこかに悪性腫瘍を合併している可能性があるそうです。心当たりの方は皮膚科経由で内科受診も必要でしょう。

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