長い長いお医者さんのつぶやきブログ~医学と医療の回想~

思いつくまま気の向くまま,医学,医療に関するちょっとした事柄を末端医者の立場から気軽に発信出来たらいいなと思い,一念発起してブログを立ち上げました。煌びやかではありませんが,よろしければお付き合い下さいませ。

シラミ症2 コロモジラミ症

第105回 シラミ症2 コロモジラミ症


イメージ 1
<コロモジラミ症>
 コロモジラミは数時間毎にヒトから吸血を繰り返し,吸血以外の時は主に衣類の襟首や袖口などの縫い目,折り目に付着して生活をします。その名前の通りコロモが好きなんですね。よって,コロモジラミ症は衣類の取り換えなど保清行動の不自由な集団を中心に発生します。
イメージ 2 イメージ 3
(出典:Pediculosis

 平穏時の先進国ではコロモジラミ症罹患者は社会全体から見れば少数で,高齢者,ホームレス,アルコールや薬物中毒者などが挙げられますが,戦争,紛争,大規模災害など衛生状態が極度に悪化した場合にコロモジラミ症が急増します。過去に,劣悪な環境の刑務所の服役者や捕虜収容所の捕虜,非人道的な精神病院などで多数のコロモジラミ症の発症した例も知られています。
イメージ 4
第一次世界大戦中,兵士が塹壕でコロモジラミを取り除く様子。出典:WORLD WAR I: Trench Warfare

 アタマジラミと同様,コロモジラミもヒトの皮膚から吸血するため,刺咬した小さな赤い点状の跡が見られます。皮膚の激しい掻痒感があり,掻爬痕(びらん,痂皮,血痂),蕁麻疹,または二次性の細菌感染を伴います。コロモジラミ症ではこれらの所見は首周り,体幹でよく見られます。虫卵が体毛に付着していることがあります。
イメージ 5

 コロモジラミの困った特徴は病原体を媒介する場合があることです。発疹チフスの原因となるリケッチア(Rickettsia prowazekii),回帰熱の原因となるボレリア(Borreliarecurrentis),塹壕熱の原因となるバルトネラ(Bartonella quintana)が挙げられます。日本でも太平洋戦争中から戦後にかけてコロモジラミ症が蔓延し,それに伴って発疹チフスが流行しました。高熱や発疹など重篤な症状を示します。適切な診断・治療を受けなければ死に至る恐ろしい病気です。ナチス・ドイツによる強制収容所では,非人道的な虐殺や飢餓の他,シラミ症も大問題で,発疹チフスの蔓延による死亡者がかなりの数に上がり,シラミはナチス・ドイツに次ぐ第二の敵でもあったのです。アンネの日記で知られるアンネ・フランク1929年~1945年)も最期はベルゲン・ベルゼン強制収容所にて発疹チフスで死亡したと言われています。

 治療は何と言ってもコロモジラミを取り除くことです。コロモジラミ症では患者さん自身の保清(全身の洗浄)ときれいな着衣が重要で,コロモジラミで汚染された衣類は廃棄が優先されます。どうしてもという場合は熱処理ないし薬品(フェノトリン)処理+洗濯です。

イメージ 6   イメージ 7   イメージ 8   イメージ 9   イメージ 10

イメージ 11 (健康と医療,医師,病院・診療所,医学部・医療系受験,つぶやきのいずれかに移行します)