長い長いお医者さんのつぶやきブログ~医学と医療の回想~

思いつくまま気の向くまま,医学,医療に関するちょっとした事柄を末端医者の立場から気軽に発信出来たらいいなと思い,一念発起してブログを立ち上げました。煌びやかではありませんが,よろしければお付き合い下さいませ。

2018-01-01から1年間の記事一覧

性感染症

第92回 性感染症 最近,梅毒患者が急増しているという報道をよく聞きます。梅毒は性感染症の一つで,その他にもいくつも存在しています。性感染症に対する認識の甘さやモラルの低さ,性教育の不行き届きを嘆かずにはいられませんが,特に先進国では治療で…

みずいぼ

第91回 みずいぼ うちの子供達も御多分に漏れず,幼稚園や地元公営プールの水泳教室で何度もみずいぼをもらって来たものです。まさに子供同士で移し合いです。御経験がありませんか? みずいぼの正式名称は,伝染性軟属腫(でんせんせいなんぞくしゅ)(Mo…

珍しくない多重癌

第90回 珍しくない多重癌 医療水準が上がったこともあり,今は多重癌の患者さんは決して珍しくありません。多重癌とは二つ以上の臓器の担癌状態を指します。一つの癌があってそれが他臓器に転移を伴っている場合は含まれません。同時発生かどうかは厳密に…

日本人研究者の活躍した脚気とビタミンB1の歴史5

第89回 日本人研究者の活躍した脚気とビタミンB1の歴史5 精白米を主体とした従来の糖質過多蛋白質過少の兵食(窒素炭素比1対27)よりも麦を取り入れた洋食(窒素炭素比1対17)が脚気対策に良かったという食品分析に基づく高木兼寛の論理は,今から見ても…

日本人研究者の活躍した脚気とビタミンB1の歴史4

第88回 日本人研究者の活躍した脚気とビタミンB1の歴史4 森林太郎は森鷗外で知られるたいへんな文豪ですが,陸軍軍医というもう一つの顔を持っていました。彼は津和野藩の御典医家に生まれ,子供の頃から論語や四書五経,オランダ語,ドイツ語など英才教…

日本人研究者の活躍した脚気とビタミンB1の歴史3

第87回 日本人研究者の活躍した脚気とビタミンB1の歴史3 脚気のお話の続きですが,その前に壊血病について少し触れさせていただきます。 ヨーロッパの大航海時代,船の大型化や新航路開拓競争による航海の長期化(寄港が少ない)に伴って乗組員に壊血病(…

糖尿病による皮膚疾患

第86回 糖尿病による皮膚疾患 糖尿病の慢性合併症の一つとして様々な皮膚疾患があります。血糖コントロール不良の糖尿病患者さんの尿には糖分が多いですから,排尿時に御自身の陰部などの皮膚に尿が付着すれば多少なりともかゆみが出るかもしれません。ま…

日本人研究者の活躍した脚気とビタミンB1の歴史2

第85回 日本人研究者の活躍した脚気とビタミンB1の歴史2 脚気はビタミンB1欠乏症の一病態です。ひどいと脚気衝心といって肺高血圧症を伴う高拍出性心不全で死に至ります。ずっと昔から存在していたと思いますが,脚気が「流行」したのは精白米を食べる習…

糖尿病による免疫力低下

第84回 糖尿病による免疫力低下 糖尿病の慢性期合併症としての細血管障害,神経障害,網膜症,腎症については様々なホームページで紹介されています。私も第78,79,81,83回で触れさせていただきました。何せ患者さん御本人の心身,生活に重い負…

糖尿病性腎症

第83回 糖尿病性腎症 腎臓は血液をろ過して余分な水分や老廃物(尿素窒素,尿酸,クレアチニンなど),電解質を尿として体外に排出する臓器です。糖や蛋白など生体に必要なものは決して漏らしません。ナトリウムと水分の調整のみならず,レニン-アンジオ…

日本人研究者の活躍した脚気とビタミンB1の歴史1

第82回 日本人研究者の活躍した脚気とビタミンB1の歴史1 脚気(かっけ)(英語Beriberi)はビタミンB1欠乏症によって末梢神経障害(多発神経炎)と高拍出性心不全(脚気心)を生じる疾患です。栄養学の知識のない昔の日本は,肺結核症や梅毒などの感染症…

糖尿病性網膜症

第81回 糖尿病性網膜症 眼球をカメラに例えると,網膜はフィルムカメラのネガフィルム,デジタルカメラのイメージセンサー(撮像素子)に相当します。網膜は眼球の内面後方に存在します。光や色を感知する神経細胞(視細胞)の敷き詰められた膜状組織(厚…

消毒法の父ゼンメルヴァイスの悲運

第80回 消毒法の父ゼンメルヴァイスの悲運 第69回,第75回でも触れさせていただきましたが,細菌(結核菌を含む)や梅毒トレポネーマへの感染に対して治療が出来るようになったのは,今からせいぜい70~80年前からです。第二次世界大戦中の1943年,イ…

糖尿病性神経障害

第79回 糖尿病性神経障害 糖尿病の合併症の一つに糖尿病性神経障害(ニューロパチー)があります。高血糖による一過性,可逆性の神経障害もありうるのですが,ここでは血糖コントロール不良が長期に継続したことで発症するものについて述べさせていただき…

糖尿病は血管を傷める

第78回 糖尿病は血管を傷める 糖尿病治療の不十分な状態が続くと,何が怖いかと言いますと,重大な合併症です。特に症状のあまりない糖尿病の方には血液中の糖分が高いだけでしょうと思われるかもしれませんが,知らず知らずのうちに徐々に血管が傷めつけ…

糖尿病の基本知識

第77回 糖尿病の基本知識 飲食物を摂取すると,主として胃から小腸において消化され,必要な栄養素が吸収され,やがてブドウ糖(グルコース,C6H12O6)が血中に増加します。静脈血中のブドウ糖濃度を「血糖値」と呼んでいます。人間の体はよく出来ていて,…

ヒ素は毒にも治療薬にもなる

第76回 ヒ素は毒にも治療薬にもなる 色々なことが起こるものです。ある製造会社のBCGワクチンを溶かす生理食塩水から微量のヒ素が検出されたとの報道がありました。生理食塩水をガラス製の容器に入れ加熱する過程で容器からヒ素が溶け出たのが原因で,2008…

猩紅熱

第75回 猩紅熱 猩紅熱(しょうこうねつ,Scarlet fever)という病気をお聞きになられたことはないでしょうか?第69回で肺結核症に触れさせていただきましたが,それと同様に,かつて猛威を振るった細菌感染症です。文学作品を読むと登場人物の誰かが猩紅…

アスクレピオスの杖

第74回 アスクレピオスの杖 国際連合の一機関である世界保健機構をはじめとして,医学,医師に関する組織,団体の多くに,「アスクレピオスの杖」がシンボル,ロゴに組み込まれているのを御存知でしょうか? アスクレピオスはギリシア神話に登場する医神で…

人工知能が病理診断

第73回 人工知能が病理診断 2018/11/01(木)に西日本新聞朝刊の「九州大学発AI病理診断第1号ベンチャーソフト開発。数分で解析,費用は半分に」という記事を読みました。いやあ~すごいですね~,とうとう人工知能が医者の領域に入って来ましたか!とい…

健康食品は健康に良くないこともある

第72回 健康食品は健康に良くないこともある 楽〇〇〇やY〇〇〇〇!ショッピングのようなホームページを拝見すると,実に多種多様な健康食品が販売されていますね。以前なら耳にしたことのない小さな会社ばかりが販売していましたが,最近は大手企業も積極…

ヒポクラテスの木

第71回 ヒポクラテスの木 医学部医学科キャンパス内や大学病院などの傍らに,1本のプラタナス(和名:鈴懸,すずかけ)の木が植えられているのを御存知でしょうか?その木の横にはきっと解説が添えられていると思います。「ヒポクラテスの木」と呼ばれて…

臨床研修と消えゆく病理解剖

第70回 臨床研修と消えゆく病理解剖 医学部医学科の専門課程に入ると,最初に解剖学の講義と実習が始まり,非常にたいへんな系統解剖によって医学を学ぶ者としての洗礼を受けるということを第4回で触れました。今は医学部医学科に入学したら,早いうちに…

肺結核症の今と昔

第69回 肺結核症の今と昔 宮崎駿監督のジブリ映画「風立ちぬ」を御覧になられたでしょうか。堀越二郎の恋人,里見菜穂子が発熱したり喀血したり高原の療養所に入院したりする場面があります。映画の中で病名は出て来ませんが,まさに肺結核症です。 肺結核…

体がきれいすぎる?現代人

第68回 体がきれいすぎる?現代人 私達医療従事者は,もちろんマスク着用や手洗いの徹底など予防策を心がけているものの,常に病原体に被曝する危険性をはらんでいます。私が卒後5年目頃まで職場では(今は行わなくなった)ツベルクリン反応検査が定期的に…

救急車と病院医師は無関係!?

第67回 救急車と病院医師は無関係!? 「救急」の感じ取り方は人に依るかもしれませんが,救急患者の受け入れ先については,一次医療,すなわち,外来で対処しうる帰宅可能な軽症患者(例えば,発熱や咳嗽,嘔吐,下痢,ちょっとした外傷など)は,自宅待…

がん化リスクのある大腸ポリープ

第66回 がん化リスクのある大腸ポリープ 「TBS系の医療バラエティー番組で,ある芸能人の方にがん化リスクのある巨大な大腸ポリープが発見された。昨年も摘出手術を受けた。医師から余命5年と告げられた。」という記事を読みました。いくら仕事とは言え,…

遅いぞ!病院の証明書

第65回 遅いぞ!病院の証明書 多くの皆様は備えとして何らかの生命保険や医療保険,がん保険などに加入されていると思います。石橋を叩き過ぎて渡る前に崩壊しそうなほど慎重な私は,ファイナンシャルプランナーの相談窓口で相談しても掛けるものはもうな…

一喜一憂する検診結果

第64回 一喜一憂する検診結果 春や秋は職場検診や住民健診が盛んだと思います。季節はいいのですが,受ける立場の方は気が重くなるかもしれません。また検査値に引っかかって病院を受診しないといけないのだろうなあとか,また同じ調査用紙に同じこと(既…

優生思想と強制不妊手術

第61回 優生思想と強制不妊手術 最近,強制不妊手術と人権侵害の問題が取り沙汰され,国への損害賠償訴訟も起きていることは御存知かと思います。強制不妊(断種)は当時の優生保護法(昭和23年制定)に基づいて実施されました。なぜこのような法律があっ…