長い長いお医者さんのつぶやきブログ~医学と医療の回想~

思いつくまま気の向くまま,医学,医療に関するちょっとした事柄を末端医者の立場から気軽に発信出来たらいいなと思い,一念発起してブログを立ち上げました。煌びやかではありませんが,よろしければお付き合い下さいませ。

蟯虫症(ぎょうちゅうしょう)

第108回 蟯虫症(ぎょうちゅうしょう)


イメージ 1  九州国立博物館が所蔵している「針聞書(はりききがき)」(縦24.3cm,横21.4cm152頁)という鍼灸に関する4部構成の医学書があります。室町時代の後期,戦国時代の山場(織田信長の上洛)である1568年(永禄11年)に,現在の大阪府茨木市辺りの出身者と思われる元行という人が書いたと考えられています。その中には,「体の中にいる虫」の絵63点が含まれています。楽しいものばかりですが,一例を以下に挙げさせていただきます。とても興味深いですので,是非,九州国立博物館のホームページを御覧下さい。
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(左から順に,脾ノ聚(ひのしゅ),陰虫,肺積,肺虫)
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 中国の三尸九蟲説の影響を受け,当時は病気を起こす原因を様々な虫で説明しました。妖怪の様な絵で紹介し,その病気の特徴,治療法について書いています。今から見れば滑稽な想像画ばかりですが,当時の人々には寄生虫症はたいへん身近な病気で,これから着想を得たのだろうと推測されます。顕微鏡もない時代で仕方がないのですが,現実と想像が混ぜこぜになっています。実は似たような虫図は江戸初期写の「五臟之守護并虫之圖」(九州大学図書館所蔵)や「針口伝書」(内藤記念くすり博物館所蔵),江戸中期写の「五輪砕并病形」(国際日本文化研究センター宗田文庫所蔵)にも見受けられます。本当に長い間,三尸九蟲説が信じられていたのですね。インターネット上では見ることが出来ませんが,公益財団法人東洋文庫の藤井文庫に所蔵されている「桃山時代解剖之圖」にもあるそうです。
詳しくは

 さて,針聞書には蟯虫(ぎょうちゅう)も登場します。庚申の夜に体より出て閻魔大王にその人の悪事を告げる虫とのことです。まさかそんなことはありませんが,蟯虫は昔から存在していました。今回は蟯虫症について触れさせていただきます。
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針聞書の中の蟯虫)

 蟯虫の中でもヒトに寄生をするものは,ヒト蟯虫(Enterobiusvermicularis)です。ヒトの盲腸に寄生する白色の糸状の寄生虫で,体長は雄25mm,雌813mmです。
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 蟯虫症は世界各国で一般的に見受けられる寄生虫症の一つで,気候には関係しません。特に小学校低学年以下の子供に多く,患児とよく接する兄弟姉妹や母親も感染(家族内感染)していることがよくあります。文部科学省学校保健統計調査の集計結果を見ると,寄生虫保有陽性者(回虫卵,鈎虫卵,蟯虫卵,その他の腸内寄生虫卵のうち一種類以上の虫卵が検出された者)は,平成27年度は日本国内の58歳で0.10.2%でしたが,その多くは蟯虫症と考えられます。昭和24年度は幼稚園で58%,小学校で64%だったのですから,いかに寄生虫症が減少したかが分かりますが,それでも蟯虫症は細々と見受けられます。

 蟯虫の成虫はヒトの大腸(盲腸付近)に寄生します。成虫の寿命は約2ヶ月です。興味深いことに,雌成虫は子宮内に卵が充満すると夜間に大腸を下行して肛門外に這い出し,肛門周囲の皮膚に卵を産み付けます。なんと約1時間に1万個の卵を肛門周囲に産み付けます。この雌成虫の動きや卵が皮膚に付着するための粘着物質が,肛門周囲の痒みを引き起こします。掻爬に伴う傷や皮膚炎,睡眠障害(寝不足)に伴う注意力の低下や落ち着きのなさ,短気,学力低下なども見られることもあります。産卵の終わった雌成虫は肛門周囲で死滅します。
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(蟯虫の体内にある虫卵。HE染色,対物10倍。)

 痒いために肛門周囲を引っ掻くことで虫卵が手指に付着します。その手であちこち触ると虫卵が付着します。指しゃぶりすると自己再感染になります。また,知らず知らずのうちに下着などの衣類,シーツなどの寝具,敷物,椅子,便座などに虫卵がばらまかれます。通常の室温で虫卵は23週間生きているそうです。その虫卵が家族や同級生,友人などの口に入ると他人への感染が成立します。経口感染した虫卵は腸管内に入り,約1ヶ月で成虫となります。その成虫が虫卵を産み付け,虫卵はばらまかれるというサイクルで感染が持続します。家族内感染だけでなく,集団感染を引き起こすこともあります。蟯虫症は通常死ぬような病気ではありませんが,まれに虫垂炎や卵管炎を引き起こすことがあるそうです。

 蟯虫症の診断は蟯虫の虫卵あるいは成虫を見つけることです。現在は学校の健康診断で行われていません(2015年度限りで学校の健康診断で寄生虫卵検査は廃止されました)が,朝一番にセロファンテープを肛門に張り付け,折りたたんで提出し,そのテープに虫卵が付着しているどうかを顕微鏡で調べてもらう方法が一般的です。大便を直接検鏡して成虫や虫卵の有無を調べる方法も考えられます。
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 蟯虫症の治療は患児だけでなく,症状がなくても家族全員が対象となります。通常,パモ酸ピランテル(商品名コンバントリン)(錠剤やドライシロップ)の単回内服1回とその2週間後内服1回の計2回行います。家庭内・施設内の清掃と衣服のまめな交換と洗濯・乾燥は徹底しての上です。メベンダゾールという薬剤を用いることもあります。

 学校保健安全法上,蟯虫症は出席停止の対象にはなりません。朝肛門周囲を洗浄すればプール制限はありません。

 もし御興味がございましたら,以下のホームページも御覧下さい。

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ヒトと寄生虫

第107回 ヒトと寄生虫


イメージ 1  私達医師は医学生の時に,医動物学,寄生虫学,免疫学,感染症内科学,感染防御学,公衆衛生学,熱帯医学などの講義,実習で,様々な視点から寄生虫について学びます。寄生虫の生態やヒトへの寄生虫感染とその病態,治療などについて勉強しますが,あくまで私達の視点は寄生虫による病気の診断,治療,予防が中心になります。
 
一方,考古学の研究を行う大学,研究所などには,生物学,地質学などの自然科学的分析手法を用いて様々な時代の自然環境とヒトの相互関係を明らかにする環境考古学という学問があります。その中には,寄生虫学を応用し,遺跡などの土壌から寄生虫の虫卵を検出しその時代のヒトの食生活や健康状態,生活範囲などを推定する分析手法があります。とても興味深いですね。
 
縄文時代前期~中期(約5.5004,000年前)の集落跡である青森県青森市特別史跡三内丸山遺跡1,2では,住民のトイレ空間と推定される遺跡北部の谷の土壌堆積物から多数の寄生虫の虫卵が検出されました。主として鞭虫(べんちゅう)(Trichuris trichiura),一部異形吸虫(Heterophyesheterophyes)であったそうです。これでもって,鞭虫症患者のものを含む人糞を使った農作,鞭虫卵に汚染された生あるいは加熱不十分の野菜や野草や水の摂取,異形吸虫に汚染された沿岸海水魚の摂取が推定されます。淡水魚や獣類の摂取はなかったか,乏しかったことも推定されます。平安時代末期の奥州藤原氏平泉遺跡群柳之御所などの土坑(トイレ遺構)からは蛔虫(Ascaris lumbricoides),鞭虫,肝吸虫Clonorchissinensis),横川吸虫Metagonimus yokogawai),日本海裂頭条虫(Diphyllobothrium nihonkaiense)の虫卵が検出されました。これでもって,汚染された野菜や野草のみならず,コイやアユなどの淡水魚,サケ,マスの生食あるいは加熱不十分の摂取が推定されます。
 
 ヒトは動物の一種ですから,有史以来寄生虫と深く関わり共生して来ました。日本人にとって寄生虫症は太平洋戦争の後,高度経済成長期の頃辺りまでは全く珍しいものではありませんでした。昭和20年代の全国民の寄生虫の保卵率は7080%と推定されています。農家が肥料として人糞を用いていた習慣が改められ化学肥料や農薬が普及したこと,上水道や下水道の整備,水洗式トイレの普及,衛生教育などが奏功し,寄生虫を取り込む機会が少なくなり,寄生虫症は減少して行ったのです。野菜など農作物に付いた寄生虫卵がヒトの口から体内に入り,寄生虫卵が便から排出され,その人糞を使って農作物を作る」というサイクルが断たれたのです。今では肥料として人糞なんて思い付きもしないでしょう。
 
 現在の日本では,ゲテモノ食いや珍味の追究などに勤しまない限り,常識的な生活を送っていれば,寄生虫症に罹ってしまう可能性はかなり低いと思います。私が医師になってから遭遇した寄生虫症の患者さんはとても少なく,逆に印象深いと言えます。赤痢アメーバ症(アメーバ赤痢,アメーバ性腸炎)は年に1回程度ですが今でも遭遇します。都会の真ん中の住民に見たことがありますよ。都会で生水を飲むのかな?イカやサバなどからのアニサキス症は時々急性腹症で救急外来に現れます。刺身や中途半端な酢漬け(バッテラなど)に御注意を。蟯虫症(ぎょうちゅうしょう)は今でも小児で見られることがあります。第103回でヒゼンダニ,第104回でアタマジラミ,第106回でケジラミに触れさせていただきましたが,これらも寄生虫です。私の住む土地では稀なのですが,上部消化管内視鏡検査で糞線虫症が偶然発見されたことがあります。
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赤痢アメーバ。PAS染色,対物10倍。)イメージ 3
アニサキスの断片(左)。HE染色,対物4倍。)
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(糞線虫症。HE染色,対物10倍。)

 生食という習慣は高い衛生状態(運搬,管理,調理等)が前提のことであり,食べ物や水に火を通す,熱をかけるという方がむしろ一般的というか,当たり前と言う感覚は無くさないでいただきたいと思います。現在の日本は忘れがちです。衛生状態が良くても肉の生食なぞ今でももっての外です。ヒトが動物である限り寄生虫症ゼロとはいきませんが,自ら進んで寄生虫症になる必要もありません。

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シラミ症3 ケジラミ症

第106回 シラミ症3 ケジラミ症


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<ケジラミ症>
 ケジラミは「毛」と言っても,特に陰毛を好みます。よって,ケジラミ症は性感染症の一つに挙げられています。陰部同士の直接接触によりケジラミが感染します。不特定多数のパートナーとの性行為により蔓延します。但し,家族間感染で小児にケジラミ症が見られることもありますので,全例が性感染症というわけではありません。ケジラミは陰毛の他,外陰部・肛門周囲の体毛,頭髪,眉毛,睫毛,腋毛,胸毛などにも拡がって寄生することがあります。毛の根元側に褐色調の虫卵が固着します。ケジラミ症の発見動機は,陰部の激しい痒みの他に,下着に茶色い粉(ケジラミの褐色調の糞=吸血後の古くなった血液)が付着していることに気付いたという場合もあります。ケジラミによって媒介される危険な感染症は確認されていません。
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(出典:Pediculosis

 治療はアタマジラミ症と基本方針は同じですが,ケジラミ症の発症部位は頭髪と異なって毛の密度が低い部分が多いですし,着衣を脱がない限り人目に付く場所でもありませんので,可能な部位は剃毛がよいかもしれません。他に,フェノトリン含有シャンプーやパウダー,すき櫛の使用も考えられます。着衣,寝具(枕カバー,シーツ),タオルなど身体に触れるものの共用は避けましょう。室内清掃の他,熱処理を伴う洗濯も検討して下さい。性行為のパートナーにもケジラミ症について警告して下さい。

 ケジラミ症だけでは医療機関に受診しない場合があるかもしれませんが,ケジラミ症の問題は他の性感染症にも罹っていないかということでしょう。性病科,産婦人科泌尿器科,皮膚科などへの受診も御検討下さい。

 以下は,第104回,第105回ででも述べたシラミ症に関するホームページの代表例です。御興味がありましたら御一読いただければと存じます。
IASR シラミ症
・日本性感染症学会 ケジラミ症
MSDマニュアルプロフェッショナル版 シラミ症

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シラミ症2 コロモジラミ症

第105回 シラミ症2 コロモジラミ症


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<コロモジラミ症>
 コロモジラミは数時間毎にヒトから吸血を繰り返し,吸血以外の時は主に衣類の襟首や袖口などの縫い目,折り目に付着して生活をします。その名前の通りコロモが好きなんですね。よって,コロモジラミ症は衣類の取り換えなど保清行動の不自由な集団を中心に発生します。
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(出典:Pediculosis

 平穏時の先進国ではコロモジラミ症罹患者は社会全体から見れば少数で,高齢者,ホームレス,アルコールや薬物中毒者などが挙げられますが,戦争,紛争,大規模災害など衛生状態が極度に悪化した場合にコロモジラミ症が急増します。過去に,劣悪な環境の刑務所の服役者や捕虜収容所の捕虜,非人道的な精神病院などで多数のコロモジラミ症の発症した例も知られています。
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第一次世界大戦中,兵士が塹壕でコロモジラミを取り除く様子。出典:WORLD WAR I: Trench Warfare

 アタマジラミと同様,コロモジラミもヒトの皮膚から吸血するため,刺咬した小さな赤い点状の跡が見られます。皮膚の激しい掻痒感があり,掻爬痕(びらん,痂皮,血痂),蕁麻疹,または二次性の細菌感染を伴います。コロモジラミ症ではこれらの所見は首周り,体幹でよく見られます。虫卵が体毛に付着していることがあります。
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 コロモジラミの困った特徴は病原体を媒介する場合があることです。発疹チフスの原因となるリケッチア(Rickettsia prowazekii),回帰熱の原因となるボレリア(Borreliarecurrentis),塹壕熱の原因となるバルトネラ(Bartonella quintana)が挙げられます。日本でも太平洋戦争中から戦後にかけてコロモジラミ症が蔓延し,それに伴って発疹チフスが流行しました。高熱や発疹など重篤な症状を示します。適切な診断・治療を受けなければ死に至る恐ろしい病気です。ナチス・ドイツによる強制収容所では,非人道的な虐殺や飢餓の他,シラミ症も大問題で,発疹チフスの蔓延による死亡者がかなりの数に上がり,シラミはナチス・ドイツに次ぐ第二の敵でもあったのです。アンネの日記で知られるアンネ・フランク1929年~1945年)も最期はベルゲン・ベルゼン強制収容所にて発疹チフスで死亡したと言われています。

 治療は何と言ってもコロモジラミを取り除くことです。コロモジラミ症では患者さん自身の保清(全身の洗浄)ときれいな着衣が重要で,コロモジラミで汚染された衣類は廃棄が優先されます。どうしてもという場合は熱処理ないし薬品(フェノトリン)処理+洗濯です。

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シラミ症1 歴史とアタマジラミ症

第104回 シラミ症1 歴史とアタマジラミ症


イメージ 1  京都国立博物館に所蔵されている国宝の中に,「病草紙」(やまいのそうし)(1952年指定)というものがあります。後白河法皇11271192年)の命で1180年代末(平安時代末期から鎌倉時代初期の頃)に制作されたと考えられている絵巻物(絵,詞共に作者不明)で,当時の人々の生活,風俗を知る上で重要な資料です。この中に,「陰虱(つびじらみ)をうつされた男」(縦25.9cm,横40.6cm)と呼ばれる一段があります。男が毛ジラミ症に罹ったため陰部を丸出しにして陰毛を剃っており,それを後ろで女が笑いながら見ている絵です。昔から毛ジラミ症は身近な存在であったことが分かります。
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(出典:e國寶 国立博物館所蔵 国宝・重要文化財 病草紙 毛虱

 太平洋戦争直後の衛生状況,医療環境の悪い時代に,子供たちの頭に白い粉が吹き付けられている写真をどこかで御覧になったことはないでしょうか?今から見ると驚く他ないのですが,この白い粉はDDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)という有機塩素系殺虫剤です。発疹チフスの原因となるリケッチア(Rickettsia prowazekii)を媒介するコロモジラミやアタマジラミ,ノミ,ハエ,カなど衛生害虫防除目的にGHQアメリカからDDTを輸入し,全国の学校,職場,街頭,駅,港などで市中の老若男女,外地からの引揚者,復員兵に強制的に散布したのです。頭だけでなく,袖口や襟の奧,ズボンの中まで噴霧機を差し込まれDDTが噴霧されました。無茶苦茶に思えるかもしれませんが,現実的には発疹チフスは激減し効果抜群でした。
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 このようにシラミは有史以来ヒトとのかかわりの深い寄生生物です。シラミ(虱)は節足動物門昆虫網咀顎目シラミ亜目に属する昆虫です。シラミは1000種以上あると考えられていますが,宿主特異性が高く,ヒトに寄生するシラミはヒトジラミ科のアタマジラミ(Pediculus humanus capitis)とコロモジラミ(Pediculushumanus corporis),ケジラミ科のケジラミ(Pthirus pubis)の3種だけです。長さは順に2.13.3mm2.33.6mm1.11.8mmです。これらはヒトが好きですが人種は関係ありません。跳んだり跳ねたりは出来ません。ヒトから離れると栄養源を断たれるので23日で死んでしまいます。
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(左から順に,アタマジラミ,コロモジラミ,ケジラミ)
(出典:CDC, Parasites - Lice

<アタマジラミ症>
意外かもしれませんが,アタマジラミ症は現代でも少なからず見受けられるもので,特に園児,児童が発症の中心です。保育所や幼稚園,小学校,役所などからアタマジラミ症についての注意書きをもらったことはないでしょうか?世界的にもアタマジラミ症は子供に多い傾向があり,特に長髪の女児に寄生率が高いようです。子供達の頭を洗う習慣と頻度,程度は気候的・文化的背景,家族の習慣,保護者の関心などが関係しており,一概に経済状態が反映しているとは言い難いそうです。子供の自立心に任せすぎて不完全な洗髪・手入れが日常化して結果アタマジラミ症になってしまったという例は,歯磨きと虫歯の関係と同じです。アタマジラミ症に季節性はなく,夏だから多い冬だから少ないということはありません。本人だけでなく最も身近な家族(子供に添い寝する親や兄弟姉妹など)にもアタマジラミ症がないか注意が必要です。

アタマジラミは頭髪と頭髪の直接接触感染の他,寝具(枕カバー,シーツ),帽子,くし,ブラシ,タオルなど身体に触れるものを介して移ります。移るのは最初少数のアタマジラミかもしれませんが,アタマジラミは産卵数が1日当たり約34個,1ヶ月に約100個で,卵は710日程で孵化し,約12週間で成虫になり,成虫の生息期間は約1ヶ月です。おそらく初感染より34週間で症状が強くなってきます。爆発的に数が増えて行きますので,悪化する前に手を打つ必要があります。卵は1mm以下の長卵円形で,セメントのような物質で頭髪の根元寄りに強固に固着していますので,そう簡単には剥がれません。

症状は頭の皮膚の強い痒みで,アタマジラミの幼虫から成虫までの吸血(少しずつ頻繁)に伴う唾液へのアレルギー症状と考えられています。掻きむしると皮膚の傷や痂皮,血痂の付着,炎症,場合により細菌の二次感染を生じます。アタマジラミによって媒介される危険な感染症は確認されていません。イメージ 8
(アタマジラミの卵。出典:Mayo Clinic, Head Lice。)

 治療は物理的に取り除いたりシラミ駆除効果のある薬品を使ったりします。剃毛して坊主頭になれというわけでは決してありません。アタマジラミ症用のステンレス製のすき櫛(英語名Lice CombNit Picker)が市販されています。アタマジラミや頭髪に固着したアタマジラミの卵をすき取ります。電動性のものもあるようです。薬品としては疥癬治療にも用いられるフェノトリンはシラミの駆除に効果がありますので,市販されているフェノトリン含有シャンプー(スミスリン®Lシャンプータイプ,シラミとりシャンプー)やフェノトリン含有パウダー(スミスリン®パウダー)を用法・用量通りに使用します。殺虫剤を使用していない安全なシラミとりシャンプー(天然成分とかハーブ入りとか)というものが市販されており,そちらに目が行きがちですが,それらの有効性については私にはデータがありませんので言及できません。着衣,寝具(枕カバー,シーツ),帽子,くし,ブラシ,タオル,水泳帽など身体に触れるものの共用は避けましょう。室内清掃の他,洗濯可能なものに対して洗濯は必要ですが,可能なら60℃以上のお湯に5分以上漬けてから洗濯する,衣類乾燥機にかける,アイロンを十分にかけるなど熱処理が有効です。どうしても洗濯や熱処理のできないものに対しては,ビニール袋に入れて1週間以上放置しておくとシラミは自然と死にます。環境管理用のフェノトリン含有粉剤やスプレーも市販されています。

 アタマジラミ症は学校保健安全法施行規則第18条で第三種感染症に分類されています。病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで出席停止になる可能性があります。通っている保育所,幼稚園,小学校に集団発生があるかもしれませんので,アタマジラミ症に罹ったら担任の先生には積極的にご報告をお願いします。

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疥癬

第103回 疥癬


イメージ 1  ダニ(蜱)は全世界で45,000種もあり形態,生態共に極めて多様性に富むものの,ヒトに害をなすものはほんの一部だそうです。節足動物門鋏角亜門クモ網ダニ目に分類されます。クモやサソリの仲間と言えます。基本的には頭部,胸部,腹部が一体となった胴体部と節のある8本の足を持ち,顎の部分には口や爪の付いた鋏角(きょうかく)や触肢(しょくし)を持ちます。ダニと聞けば,ハウスダストとダニアレルギーが最初に思い浮かぶかもしれませんが,今回はヒゼンダニが原因の疥癬について触れさせていただきます。

 疥癬(かいせん)は別名,皮癬(ひぜん),英語名Scabiesと呼ばれます。無気門亜目ヒゼンダニ科に属するヒゼンダニ(皮癬ダニ)による皮膚感染症を指します。昔から世界中にありふれた病気で,今も日本のどこかで疥癬患者さんが存在すると思います。ダニと聞くと刺されたり血を吸われたりする印象があるかもしれませんが,ヒゼンダニはあくまでヒトやイヌ,ネコ,ウサギ,ウマ,ウシ,タヌキ,ハリネズミ,キツネなどの哺乳類の皮膚(角質層)への寄生を好みます。身体の中にまで入ってくることはありません。ヒゼンダニの中でも特にヒトの体温が最も生息に適した環境である種(Sarcoptes scabiei var. hominis)への接触感染(特に交尾直後の雌成虫)が疥癬の原因となります。ヒゼンダニの成虫は0.20.4mmで,虫眼鏡で観察が可能です。ちなみにヒトの皮膚から離れるとヒゼンダニの動きは鈍くなり,16℃以下では動けなくなり,23時間程で死ぬそうです。高熱や乾燥に弱く,50℃以上の環境(家庭用乾燥機程度)に10分間以上さらされると死にます。 
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 疥癬には通常疥癬,角化型疥癬ノルウェー疥癬)と呼ばれる2つの病型があります。同じくヒゼンダニが原因ですが,前者ではヒゼンダニの数が数十匹~1000匹以下に対し,後者では100200万匹だそうで疥癬の重症型と言え,背景に免疫力の低下があり,寝たきりの高齢者が最も良い例でしょう。角化型疥癬は他人への感染力が強いです。曝露(接触)したヒゼンダニの数や曝露者の身体状況などにも依りますが,一般的には,疥癬が発症するまでに12ヶ月の潜伏期間があるとされています。感染直後は症状が全く出ません。

 理屈でいえば疥癬は全身の皮膚どこに発症してもおかしくないですが,通常疥癬は原則として頭頸部を除く全身の皮膚に発症します。まず,手首,手掌,指間,指の側面などには疥癬トンネルが好発します。
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(出典:PrimaryCare Dermatology Society, Scabies. http://www.pcds.org.uk/clinical-guidance/scabies#!prettyPhoto
 これは疥癬に特異的な所見で,ヒゼンダニの雌成虫が産卵しながら角質層内を掘り進んでいる道筋そのものであり,皮膚表面からわずかに隆起し蛇行して白っぽく見える,幅0.4 mm(指紋1つ分程度),長さ5mm程度の線状皮疹です。痒みや発赤を伴います。ヒゼンダニの侵入側には鱗屑が認められ,掘り進んだ先端では小水疱を認めることもあります。トンネル内には虫卵,疥癬トンネル先端やその近傍には虫体を検出する可能性が高いです。以下は疥癬症例の皮膚組織標本の写真です。反応性に表皮が不規則に肥厚し過角化を伴っていますが,角質物内に疥癬が認められます。これが疥癬トンネルの断面です。
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HE染色標本。対物10倍。)
 臍部,胸腹部,腋窩,大腿内側,上腕などには,特に夜間に激しい痒みを伴う紅斑性丘疹が散在します。ヒゼンダニの糞や脱皮殻,虫体などに対して感作され,アレルギー反応として生じてくるとされています。ヒゼンダニに刺されたからではありません。水疱や膿疱,痂皮が見られることもあります。主に男性の外陰部や腋窩,肘頭部,臀部などには小豆大の赤褐色の皮膚結節が認められることがあります。これも激しい痒みを伴います。
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(出典:PrimaryCare Dermatology Society, Scabies. http://www.pcds.org.uk/clinical-guidance/scabies#!prettyPhoto

 角化型疥癬は典型例では,頭頸部を含む全身,特に摩擦を受けやすい部位や骨ばった部位(手,足,臀部,肘頭,膝蓋など)で,肥厚した灰色から黄白色の角質増殖と鱗屑,痂皮に覆われた状態(蛎殻様)になります。手掌や足などに限局する場合や爪が侵される場合,亀裂を生じる場合,全身の皮膚が潮紅(紅皮症状態)する場合もあります。不思議なことに激しい痒みを感じる場合と全く痒みを感じない場合があります。
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(出典:PrimaryCare Dermatology Society, Scabies. http://www.pcds.org.uk/clinical-guidance/scabies#!prettyPhoto

 疥癬の診断の決め手はヒゼンダニの検出です。疥癬トンネルや新鮮な丘疹・結節,角質物の一部を採取し,顕微鏡観察を行います。熟練者ではダーモスコープで疥癬トンネルの尖端に黒褐色調のヒゼンダニを見出すことが出来ます。血液検査によるヒゼンダニ特異的IgE検査は開発されていません。
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(出典:PrimaryCare Dermatology Society, Scabies. http://www.pcds.org.uk/clinical-guidance/scabies#!prettyPhoto

 有機塩素系殺虫剤のγ-BHC(ガンマ-ベンゼンヘキサクロリド)やピレスロイド系殺虫剤のペルメトリンは確かにヒゼンダニに対して殺虫効果がありますが,日本では治療として疥癬患者に直接使用することは難しいです。日本で保険適応の治療方法としてはフェノトリン外用剤(スミスリンローション5%)やイオウ外用剤,クロタミトン外用剤(オイラックスクリーム),あるいはイベルメクチン(ストロメクトール錠)内服になります。皮膚科医の診察によって症状に応じ,外用剤のみ,外用剤と内服薬の併用が決められます。痒みが強い場合は抗ヒスタミン薬の内服も考慮されます。治療初期には通常ステロイドの外用や内服を行うことはありません。

 入浴による全身の丁寧な洗浄や衣服・寝衣・下着の交換も大切です。通常疥癬は家族,介護者,セックスパートナーなど濃厚な接触でない限り他人への感染力は強くないとされていますが,治療中はタオルやバスマット,衣服・寝衣・下着,寝具などは患者さん自身専用とする方が良いでしょうね。畳での雑魚寝や同室での就寝も遠慮しましょう。角化型疥癬接触のみならず皮膚の落屑などを介しても感染しますので,前述の厳重な対応は必須です。

 疥癬は病院や特別養護老人ホームなどで流行すると,多剤耐性菌やインフルエンザ,肺結核症の蔓延に匹敵して大問題になります。もし一人でも疥癬患者(特に角化型疥癬)が出れば,積極的で厳重なアウトブレイク対策を講じなければなりません。医療・介護スタッフは日常の手洗いや消毒,標準予防策(手袋,マスク,エプロン,ゴーグルなど)は当然のこと,場合によっては前述外用剤,内服薬の予防投薬も必要かもしれません。環境清掃(ばらまかれたヒゼンダニを電気掃除機で吸い取る)や衣服・寝衣・下着やリネン類などの熱水処理も必要でしょう。場合によってピレスロイド系殺虫剤(ダニアース,バルサンなど)の使用も良いかもしれません。ヒゼンダニはヒトから離れるとしばらくして死ぬことから,疥癬患者さんのシェーバーなどの私物をナイロン袋に入れて1週間程放置しておくといったり,事後に疥癬患者さんの居た病室を1週間程使用中止にしたりする方法も有効かもしれません。

 疥癬に関しても様々なホームページから情報を得ることが出来ます。以下に代表例を挙げさせていただきます。御興味のある方はインターネットで御検索下さい。

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尖圭コンジローマ

第102回 尖圭コンジローマ


イメージ 1  尖圭(せんけい)コンジローマ(Condyloma acuminatum)は性感染症の一つで,ヒト乳頭腫ウイルスの特に6型,11型の感染によって性行為に関連した部位(外陰部,陰茎,膣,子宮頸部,肛門周囲,口腔など)に発生する多発性の「いぼ」を指しています。淡紅色ないし褐色調で,形状は細長くとがった様,乳頭状,あるいはにわとりのとさかの様で,「尖形疣贅」とでも言った方がよいのかもしれません。単発だと数mm大かもしれませんが,多発・癒合すると数cm大になったり,大陰唇全周性というのもありうることです。 
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 ヒト乳頭腫ウイルスに感染している人との性行為によって,ウイルスが皮膚や粘膜の小さな傷から侵入し感染します(接触感染)。潜伏期間は数週間から3ヶ月と言われています。潜伏期間には症状がありませんので,尖圭コンジローマを発症してから感染に気付くことがほとんどだと思います。そのため,性行為の相手方あるいは自分が潜伏期間中にウイルスを頂戴してしまう,感染させてしまう可能性があり問題と言えます。100%の確率で感染=発症とは限りませんので,免疫状態によっては不顕性感染のまま自然治癒する可能性もあると考えられています。尖圭コンジローマはヒト乳頭腫ウイルスのうち6型,11型という低リスクのものが主たる原因ですので,悪性化する可能性は低いですが,16型,18型などの高リスクのものが分離されることもあり,この場合悪性化に注意しなければなりません。

 以下は尖圭コンジローマの組織写真です。表皮が過角化,肥厚を伴って乳頭状構造を形成しています。よくみると核の周りが白く抜けている棘細胞が多く認められまが,これをコイロサイトーシスと呼び,ヒト乳頭腫ウイルス感染細胞の形態変化として知られています。
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HE染色標本。対物10倍。)

 尖圭コンジローマ自体にはほぼ症状はないと思いますが,摩擦などによる疼痛やびらん・出血,外陰部などの不衛生による痒み,異物感,違和感,美容的不快感などがあるかもしれません。程度にも依ると思うのですが,23割は3ヶ月以内に自然消褪するとの記載があります。但し,現実的には「何とかして欲しい」患者さんが受診されますから,医療機関側からすれば何もせずに自然消褪の経過を観察する機会はあまりないのではないかと思います。

 産婦人科泌尿器科,皮膚科,性病科が主たる受診先になります。尖圭コンジローマの治療方法は従来,凍結療法,レーザー蒸散,外科的切除,電気焼灼などの外科的な肉眼的病変の除去が中心でした。しかし,侵襲性や再発率の高さが問題でした。最近,イミキモドという新しい治療薬も登場しました。間接的抗ウイルス薬というべきか免疫治療薬というべきか,主としてIFN-αの産生促進を介したウイルス増殖の抑制及び細胞性免疫応答の賦活化によって,ウイルス感染細胞を障害するのだそうです。ベセルナクリーム5%という商品名です。外科的な病変除去と共に処方されるかもしれません。

 子宮頸癌ワクチンはヒト乳頭腫ウイルスに対する予防接種です。ガーダシルという4価ワクチンはHPV6型,11型,16型,18型をカバーしていますので,尖圭コンジローマに対しても予防効果が期待されます。一部の副作用が問題となり,現在,子宮頸がんワクチン接種は厚生労働省の勧告に基づいて地方自治体からの積極的勧奨が差し控えられていると思いますが,希望者は定期接種(中学1年生となる年度に3回接種)が受けられると思います。御検討されても良いでしょう。

 尖圭コンジローマは感染症法の5感染症(国が感染症発生動向調査を行い,その結果に基づき必要な情報を国民や医療関係者などに提供・公開していくことによって,発生・拡大を防止すべき感染症)に分類されています。性感染症定点医療機関(全国約1,000ヶ所)は月毎に保健所に発生状況を報告しています。ここ10年程は年5500件前後で推移しているようです。

尖圭コンジローマに関しても様々なホームページで情報が得られると思います。以下に代表例を挙げさせていただきます。御興味のある方はインターネットで御検索下さい。

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