長い長いお医者さんのつぶやきブログ~医学と医療の回想~

思いつくまま気の向くまま,医学,医療に関するちょっとした事柄を末端医者の立場から気軽に発信出来たらいいなと思い,一念発起してブログを立ち上げました。煌びやかではありませんが,よろしければお付き合い下さいませ。

糖尿病性網膜症

第81回 糖尿病性網膜症


イメージ 1  眼球をカメラに例えると,網膜はフィルムカメラのネガフィルム,デジタルカメライメージセンサー(撮像素子)に相当します。網膜は眼球の内面後方に存在します。光や色を感知する神経細胞(視細胞)の敷き詰められた膜状組織(厚さ0.20.3mm)で,細い血管(網膜動脈,網膜静脈)が張り巡らされています。長径40mm前後とされていますが,そのうち黄斑と呼ばれる径2mm前後の狭い領域は,視細胞のうち色彩に鋭敏な錐体細胞の密度が高く視力の中心的機能を担っています。黄斑の5mm程度内側に視神経乳頭(視神経の出入り口)が存在しますが,ここには視細胞がありませんので,この部位では物が見えない,つまり盲点に相当します。網膜で検知された情報は視神経を通じて脳へ送られます。

 糖尿病の合併症の一つに糖尿病性網膜症があります。初期の単純糖尿病性網膜症では,細血管障害に伴う毛細血管瘤や小さな出血(点状,斑状),浮腫,漏れ出た蛋白質や脂肪の沈着による硬性白斑が認められます。この段階では自覚症状はほとんどありません。しかし,一歩進んで前増殖糖尿病性網膜症では,血流不良での酸素不足に対する生体防御反応として新生血管が増生し始めます。ところがこの新生血管は脆弱なため容易に破綻し出血を生じます。また,血管閉塞に伴って軟性白斑が形成されます。この段階になると,目のかすみなどの症状を自覚する人が出て来ます。さらに増殖糖尿病性網膜症では,新生血管が網膜のみならず眼球体積の主となる硝子体(水晶体と網膜の間に存在)に向かって伸びて行きます。硝子体内に出血を生じると,飛蚊症(黒いゴミの様なものが視野に浮かぶ様に見える)になるかもしれません。また,出血後に形成されるかさぶたの様な増殖組織が引っ張って網膜剥離を起こすかもしれません。視力が低下,場合により失明するかもしれません。

 糖尿病性網膜症の怖いところは,かなり進行するまで自覚症状がない場合があります。網膜光凝固術や場合により硝子体手術で治療することになります。糖尿病の方ではよく見えるから大丈夫という自分勝手な判断は危険です。定期的な眼科受診,眼底検査が必要です。

イメージ 3   イメージ 4   イメージ 5   イメージ 6   イメージ 7

イメージ 8 (健康と医療,医師,病院・診療所,医学部・医療系受験,つぶやきのいずれかに移行します)