大学医師の職位
第44回 大学医師の職位
最近,医者や医療現場を題材にした漫画や小説を結構目にします。ですが,私の頭には,やはり,漫画と言えば故手塚治虫さんの「ブラックジャック」,小説と言えば故山崎豊子さんの「白い巨塔」「続 白い巨塔」が思い浮かびます。世代がばれますね。白い巨塔は何度も実写化されましたが,私のお気に入りは1978年版(フジテレビ)ドラマシリーズで,故田宮二郎さん演じる財前五郎(浪花大学第一外科助教授)や山本學さん演じる里見脩二(第一内科助教授)の姿が今でも思い出されます。どの出演者も真に迫る演技力があり,迫力満点でしたね。
白い巨塔で思い付きましたので,今回は大学医師の職位について触れさせていただこうかと思います。総合大学や医科大学の医学部医学科では,基礎医学,社会医学,臨床医学の各領域に様々な講座(教室)が存在しています。例えば,病理学講座,法医学講座,呼吸器内科講座が挙げられます。昔は第一内科,第二内科,第一外科,第二外科などと数字で読んでいましたが,外部の方には中身がよく分かりませんので,最近は専門性が分かるように標榜しています。政策的な大学院重点化の対象となった大学では, 医学部医学科~~講座よりも大学院医学研究科~~講座のような呼称を用いています。
講座(教室)のトップとして必ず教授が就任しており,その教授の采配で(特に正式な大講座なら)以下に准教授(昔の助教授),講師,助教(昔の助手)という序列で「教員」が所属しています。小さな講座では教授単独,あるいは教授と助教だけということもあります。特に臨床医学の領域では,教員は通常医師免許を保有していると思いますが,講座によっては教授も含め医師でない方で全体ないし一部が構成されていることもあります。教員以外では,大学院前期課程(修士課程)ないし後期課程(博士課程)の学生,研究助手,事務員などが所属しています。教授の指導の下,いくつかのテーマについて医学研究を行い論文化し,学生は教育を受けます。
組織図的には,大学院の中の医学研究科の中の~~講座,あるいは大学の中の医学部の中の医学科の中の~~講座ですが,一般的な会社の中の一部署と異なって,各講座はそれぞれが独立したお城のようなイメージで,講座の中で教授は強い力を持っています。もちろん組織として,医学科長,医学部長/大学院医学研究科科長,附属病院長,理事,副学長,学長のような管理職も存在していますが,何と言ってもそれぞれの講座が本来の仕事で重要な役割を果たしています。講座同士で浸食するなど考えられませんし,管理職がそれぞれの講座の研究内容に口を出すなど考えられません。
教授,准教授,講師,助教の職位の前に形容詞が付いている場合があります。例えば,特命,特任,特定,病院のような言葉です。形容詞が付かない正式な講座の教員と異なって,特命,特任,特定教員は研究委託費(寄付金)や収益金など,特別な予算,黒字の範囲で設定した職位を指します。多くは数年程度の任期付きだと思います。特命講座,特任講座,特定講座はどこかの正式な講座の一部門に位置付けられると思いますので,例えば教授の序列でいえば,教授>特命教授,特任教授,特定教授の様に下の格付けになります。准教授よりは上で独立性のある副教授的な存在と言えるかもしれません。正式な講座の教員は月給,ボーナスの従来の年功序列型給与体系で,特命,特任,特定教員は年棒制だと思いますが,最近は教員全てが年棒制に移行しようという動きになっています。ちなみに,医学部だろうと教員はあくまで「学校の先生」ですので,小学校,中学校,高等学校と基本的に同じような給与体系です。
内科や外科のような大講座になると所属する教員が多いですが,競争も激しく,年功序列で上に挙がっていける程甘いものではありません。たとえ助教であっても筆頭の助教だとかなりのキャリアがある方だと思います。教授や准教授など恐れ多い雲の上の存在で,下っ端が教授や准教授にお会いするなど日常ではあまりないのではないでしょうか。特に臨床医学系の教員は大学病院,医学部附属病院の医師を兼務しますが,教授は各診療科,診療部門の科長,部長になります。
教授,准教授,講師,助教の職位はあくまで大学院,大学の中で通用するものに過ぎませんが,教授なら国立機関本庁の課長級,出先の部長級というところでしょうか。特に臨床医学系の教員の場合,一般的な市中病院なら教授は院長,准教授は管理職レベルの部長~副院長,講師は科長~管理職レベルの部長といった感じの「天下り」になるのではないでしょうか。実際的に,講師以上は実力的に一人で采配可能な熟練レベルであるのに違いはありません。助教は医員ほど下っ端ではないけれど大学院入学前や卒業後まもなくといったところで,真の意味の教員とは言い難い面があります。医師同士なら教員と言えば講師以上を思い浮かべるのではないでしょうか。